四谷須賀町の猫と笹寺のご婦人、ママと呼ばれる

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

四谷の用を済ませた後少し時間が空いたので、新宿まで歩く。
四谷の須賀町の辺りは寺町になっていて、通りにズラリと寺社が並んでいる。この界隈、四谷須賀神社の周辺などは起伏も多く、表の新宿通りだけ見ているとまるで気づかない味わい深い風景がある(新宿通りと靖国通りに挟まれた愛住町の辺りもまた格別)。


若葉湯。閉店してしまったらしい。

神社仏閣などを眺めながら歩いていると、猫がいた。

遠目には門の前に座っている姿が置物のようだったけれど、近づいてみると本物だった。まあまあお年を召されている風。まるで人を恐れずぬいぐるみのように座っている。

この猫の写真を撮っていると、散歩中らしい年配のご婦人に話しかけられる。
「かわいいねえ」「かわいいですよねえ、ぬいぐるみみたい」「ほんとにねえ、ぬいぐるみみたいねえ」。
しばらく話した後、ご婦人は「では」と先に行かれた。

わたしも猫にさよならをして歩き出したけれど、すぐ先に歩度も緩いご婦人がまだ歩いている。なんとなく気まずいなあ、と思っていると、行き先も同じ笹寺長善寺だった。

流石に見てみぬふりでもおかしいので「先ほどはどうも」と話しかける。
「この辺りなの?」「いえ、違うんですけど、四谷に用があって、ちょっと時間があったので。お近くなんですか?」「ええ、御苑の辺りに、もう三四十年も」「うわあ、羨ましいです」
ここから井戸端会議というか、すっかり話し込んでしまって、三十分以上、もしかすると一時間近くずっとお喋りしていた。
とにかく、年配のご婦人のお話を聞くのが楽しい。
長く新宿に暮らされているけれど、ご出身の北海道に帰ろうかと思っていること。五十九歳の時にお母様の介護が必要になり、ペーパードライバーだったので新宿駅西口で一回八千円の講習を十回受けて帰郷されたこと。二ヶ月交代でお姉さまと介護に尽くされたこと。お姉さまとの間に強い絆があり老後は共に暮らしたいこと。最近ご病気を患い、前にも癌に二回なったことがあるので医療は東京が安心だけれど、隣は何をする人ぞの東京より田舎の水が恋しいこと。お兄さま(お姉さまのご主人?)が働き者なこと。
ご主人は茨城の出の一人っ子で年下なこと。寒いのが苦手だし雪かきなどの仕事をしてくれるか不安もあること。
パートナーが年下で子供がいない、という所が自分と被っていたこともあり、本当に楽しくお話を伺ってしまった。
年下の旦那さんに絶対に先立たれたくない感じとか、頼りなげに仰るけれど愛していらっしゃるのだなぁ、と思った。大体、新宿御苑を臨める土地に家を構えられるのだから、相当甲斐性のある旦那様に違いない。
最後にはご婦人の方が疲れてしまったのか、「歩きながら話さない?」と振って頂き、近くの神社との曲がり角までご一緒させて頂いた。楽しい時間を本当にありがとうございます。

この日はその後寄った薬局で処方を待っていたところ、若い夫婦とベビーカーの赤ちゃんに遭遇。奥様とわたしが二人並んで座っている方に、この子供が「ママ」と呼びかける。それが気まずいと思ったのか、ベビーカーを押す旦那さんがわたしと奥様が別角度に見える位置に移動。すると子供がわたしの方を指差しじっと見たまま「ママ」と言った。
これには三人で大爆笑。
お二人は恐縮され、旦那さんが「女の人は皆んなママなのかな」などと仰っていたけれど、子供はきょとんとして「え、ボク今言葉の使い方間違えた?」という表情。
こちらとしては、ちょっとびっくりするくらい多幸感に包まれて、とても良い経験をさせて頂いた。
いつでもママと呼んでいいですよ。
他人の子供くらいが一番楽でいいですよね。うふふ。

スポンサーリンク

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする