浦和競馬場、ビビったりビビらせたりして大人になる

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

南浦和。社会科見学に競馬に行ってきた。
駅東側に出るべきだったのだけど、宝性寺を見るために一旦西に出て、少し北に行ってから京浜東北線の線路を歩道橋で東に越えた。この歩道橋が鉄板を渡しただけみたいなよく揺れる歩道橋で、床板も薄っぺらい上少し錆びていて、高い所が苦手な人間にはなかなかキツかった。
社会科見学というのは本当に文字通りで、わたしはギャンブルはやらない。まったく才能がなく、すぐ熱くなって「次は来る!」とか思い込んでしまうタイプなので、やらないようにしている。しかし飲む打つ買うというのは人の営みとして基底的で、賭け事も多少は嗜んでおかないといけない。幸い友人に骨の髄までギャンブラーみたいな人がいるので、お願いして連れて行って頂いた。
浦和競馬場は思っていたよりずっと和やかな場所だった。以前に散歩中に西川口のオートレース場に通りがかったのだけど、あそこはもっと殺伐としていた。ギャンブラー氏曰く、競馬は馬という存在が間に入るのでいくらか穏やかになる、ということらしい。まぁ確かに、馬だと仕方がない感じがする。
大井競馬場などはもっと大きくて人も多いらしいのだけれど、浦和競馬場はさほどの人混みでもなく、縁日くらいの感覚で見学できる。
入場の時に全然知らないオジサンに「やるよ」と無料入場券を貰ってしまったのにはハッとさせられた。そもそも入場にお金がかかることも知らず、「え、なんですかこれ」と思っているうちにオジサンはどこかに行ってしまった。
薄汚いけれどある種真っ当な世界がここにはある。
屋台とどっこいどっこいみたいな売店では、おばちゃんに焼き鳥を出されて「これ100円で要らない?」と言われた。間違えて焼いてしまったのか「暖かいうちに食べた方が良いでしょ、半額以下だし」という。もちろん買った。真っ当な商売だと思う。
お客さんのほとんどはオジサンで、平日だったせいか年齢層も高い。でも本当にヤバい感じの人はさほどはいない。女性もちらほらいる。なんか訳ありっぽい感じのオーラが漂うけれど、わたしもそっちの部類なんだろう。

パドックなるところでポクポクお馬さんが回っている。そこで馬を見て「コイツは行ける!」とか判断するらしい。ギャンブラー氏には、毛並みがどうとか興奮しすぎていない方がどうとかご説明頂いたけれど、正直さっぱりわからない。全部馬だ。
馬は馬で「なんでいつも走る前にぐるぐる回るんやろ。なんなんこれ?」と思っているのではないかと言ったところ「そんなぼんやりしている馬では競争できない」とのことだった。わたしはたぶん、競走馬にはなれない。
実際にレースとなっても、買っていないとどれもお馬さんで、さっぱり感情移入できない。しかし買ったら流石に応援する。「行けーっ!」と思う。千円を二回買って両方負けた。まぁそれはそうだろう。映画一回分くらいだから適当な支出だったと思う。

それにしても、ナマで見るお馬さんは大迫力で圧倒された。見ている自分がいなくなるような存在感だ。
わたしは動物の中では馬はさほど好きではない。ちょっと出来すぎている感じがして愛嬌に欠けるのでは、と思っていた。しかし直接見た走る姿には度肝を抜かれた。やはり馬は走るもの。ぼんやり草を食んでいる姿を見たりしても、画家がパチンコ打ってる姿を眺めるようなものだ。
パカランパカランパカラン!と地面を踏みしめて一斉に走ってくる。騎馬民族とかそんなのがあんな凄まじい動物の背中に乗ってやってきたら、これはもう降参するしかない。絶対勝てない。

という流れでギャンブラー氏と話したのだけれど、絶対勝てないとか言っても、死ぬ気で槍とか持って突っ込んだら物理的にはなんとかなることもたまにはあるのかもしれない。でもそういう問題ではない。ビビってしまって動けない。動物はモノではないし、ビビるとかビビらせるとかいうことで動いている。
巣を狙われた鳥がバサバサ羽ばたいて威嚇することがある。あれだって、バサバサやられても別に痛くも痒くもない。でもビビる。大きい声とかにもビビる。物理的ダメージは受けていなくてもつい逃げてしまう。
人間だってそんなもので、本当のサイコパスか非人道的な訓練を受けた殺人マシーンでもなければ、ビビるビビらせるで話が動くのが正常である。
モノとモノがぶつかりあうだけの戦いなんてものは近代以降の所産で、発想からしておかしい。ちょっと前まで大きな声で歌を歌ってビビらせるとかバグパイプでビビらせるとか本気でやっていたのに、ナパーム弾で町ごと焼き払うとか、残酷とかなんとか言う以前に生き物の理法としてトンチンカンに過ぎる。別にタフになったのではなく、単に幼稚になったのだろう。
子猫は煙草の煙を嫌がらない。まだ自分が嫌ということがわかっていなくて、キョトンとしている。大人になると避ける。この子猫のようなもので、きちんとビビることができていないのだ。幼稚なのである。

馬が走るパカランパカランパカラン!というリアルは圧倒的だ。ああいうものを見て、馬の偉大さにビビらないといけない。
大きな滝なんかもそうで、そんなものはテレビとかネットでいくらでも見られるのだけれど、実際にナマで見るとビビる。自然は凄いものだ。
お相撲さんだってテレビで見ると小さいけれど、前に両国を歩いていたら本物がいて、あまりのデカさにビビった。あれはたぶん、力士としては全然大したことのない下っ端だったのだけれど、それでもど迫力だった。横綱なんか見たら腰が抜けてしまうかもしれない。
ビビったりビビらせたりして動物は大人になるのだ。本物を見ないといけない。


浦和競馬場。


わしのおみ足。


予想屋さんって凄い職業だ。

スポンサーリンク

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする